「年上の息子」
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 自分は結構、幸せな人間だったと思う。
 ……昨日までは。




 中学を卒業して、近所のいとこの事務所で仕事をさせてもらって、二十四の時に
知人の紹介という形で、今の主人と知り合い、次の年に結婚した。
 わたしの歳の女なら、特に早い訳でもなければ、遅くも無い。
 主人は、小さな工場の主任を勤め、性格は真面目。趣味は釣りと競輪くらい
で、映画鑑賞と観劇が趣味のわたしとは、話が合わなかったが、五歳上でおっ
とりとした主人とは、特に喧嘩らしい喧嘩もしなかった。

 そんなわたしと主人の間に出来た一人娘の悠子は、結婚三年目に生まれた。
 悠子を出産した後、次の子供を望んだが、一度流産してしまった後、どうして
も妊娠出来なかった。
 現在なら、色々な治療法などがあるらしいが、わたしの時代には田舎だった
という事もあって、聞いた事がなかった。
 長男を熱望していた姑に「女の子なんかいらないのに」とか「お前は役立たず
の嫁だ」等、言われて鬱気味になった事もあった。
 そんな時、「悠子一人いればいい」と言ってくれた主人を、わたしは今も忘れ
ない。相変わらず姑とは気が合わないが、優しい主人と悠子がいれば、わたし
は幸せだったのだ。




 一人娘の悠子は、大事にしすぎ、少々過保護気味な感じはしたが、わたし達
を困らせる訳でもなく、悪い友達と付き合うわけでもなく、顔も性格も主人に似た
ごく普通の娘だった。
 地元の高校を卒業した後、今住んでいる町から、電車で三十分位の場所にある
短大へと進み、毎日、元気に通学している。
 毎月こづかいを与えているが、友達に誘われたと言って、短大の近くにある、
カラオケボックスで、週三〜四日程働くようになったが、今時、アルバイトをしてい
ない学生の方が、少ないだろう。友人と一緒だという事もあって、わたし達は、得
に反対はしなかった。


 その頃だろうか……。
 週に何回かのバイトで、遅くなる事が増えたのは。だが、悠子は遅くなる時は、
必ず家に電話をよこし、外泊もせずに帰って来ていた。わたしも主人も、悠子を
信じていたのだ。「帰りが遅くて電話もよこさない」と近所の友人が愚痴を言って
いるのを聞くたび、うちの悠子はなんて親思いのいい娘なのだろう――と、内心
ほくそえんでいたものだ。
 だから、驚いたのだ。
 いきなり付き合っている人がいる、と言われた時は。だが今まで男の子と付き
合った事もなく、多少心配もしていたので、主人はいい顔しなかったが、わたしは
嬉しかった。
 家に連れて来て、紹介したいという悠子のお願いに、わたしはぜひ連れて来い
と悠子に言った。
 バイト先で、知り合ったというそのボーイフレンドに、わたしは興味があった。
 どういう男だろう?やはりまだ学生なのだろうか?バイトをしているのだから、
社会人ではないだろう。髪は長くしているのだろうか?今の男の子は、女の子み
たいに、髪を染めたり、ピアスをしているが……。まじめな学生だといいのだが。
 わたしは、そんな風に、色々想像した。
 そして、来週の土曜日なら、主人も家にいるから……という事で、その日に悠子
のボーイフレンドと、会うことになったのだ。



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